食 道 発 声 法

このリズムが身につくと、食道発声練習の峠
を超えたことになります。

 


 しかし、この注入・吸引の2法はあくまで基本で、これだけでは不十分です。
この両者を同時にうまく組み合わさなければなりません。肺呼吸に一致して注
入し、吸引し、肺呼吸に一致して吐気して発声するというリズムを覚えることで
す。 これを吸気注入法といいます。

 吸気注入法
この2つの力を使って、食道内に空気を送り込み、空気を搾り出すのが食道発声です。
食道発声の基本は、食道内に口腔から空気を取入れ食道内に空気を蓄え、これを
吐き出して発声するのです。

 母音発声練習

 喉摘者の音声言語気管は下図のように喉頭がなく、頚部に気管孔が作られここで呼
吸をします。このため気道と食道が分離されたこのままでは喋れません。

 吸引

 これは吸引法と呼ばれるもので気管孔から肺呼吸をすると、胸部は前上方、側方に拡張し、横隔膜も下方に下がります。
 胸郭内の後方にある食道も同時に引っ張られ、食道内圧が低下します。
 この現象を利用すると口腔内の空気が食道内に自然と吸引されます。したがって肺呼吸時に食道内に空気が吸い取られ、呼気時に食道内の空気が吐き出され発声します。
 
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 図は順序・リズム感を注射器を使って解説したもので、左側は口腔、右側は食道です。
 1)まず気管孔から十分に息を吸い、さらにわき腹を膨らませて息を吸い続けます。このとき胸郭は最大に拡張し、食道内圧は最大の陰圧です。
 2)この瞬間に舌の注入運動を行って、口腔内の空気を押し込むと陰圧化していた食道内に空気が吸引され、充満されます。
 しかし、このままでは食道内の空気は胃に行ってしまうので直ちに空気を吐き出すのです。この際に「ゲー」と音が出ます。これが吸気注入法で、喉摘者に適した空気摂取法といってよいでしょう。
 初期段階ではなかなかうまく行かないでしょうが、練習を重ねると肺呼吸と同調するよ
うになってきます

高槻喉友会

はじめに

 このテキストを作るにあたって阪喉会・佐藤武雄先生の「食道発声教本」を参考・抜粋させて頂いたことをお礼申し上げます。より詳しい教本が入用な方は、阪喉会へお問い合わせください。

 さて、喉摘手術をされて言語を失ったのですが、それにもめげず、新しい声を手に入れようとする方々に敬意を表しながら、本題に入っていきたいと思います。
 コツは練習を続けること・あきらめないこと。それだけです。頑張りましょう。

1>食道発声のしくみ

 
喉頭が摘出されると今まで肺の空気を使って声帯を震わせて発声していたのが、できなくなります。残っているのは肺呼吸と嚥下(えんげ・物を飲み込む力)だけです。


 注入

 嚥下法は胃の中に食物を送り込むことなのですが、空気を胃の中に入れても仕方がありません。この嚥下法に変わるのが注入法です。
 図のように、注射器のピストンのように下を使って食道内に空気を送り込みます。
 力の入れ方は、舌の後部を後ろに引っ張ると同時にあごを引いて後ろへ引っ張るようにします。この際、首にも力が入ります。
 繰り返し練習し、空気が<ゴクッ>と入ったら間髪を入れずに発声します。
 

 そこで、肺の代用として食道を使います。
この食道発声は食道に空気を取入れ効率
よく吐き出し、仮声門を振動させて「ゲー」音を作り、手術前と同じ要領で発声します。
 仮声門は喉頭が合った場所に作られていて、気管孔より数センチ上にあります。発声時に手を当てると振動が伝わってきます。
 最初は食道内に自由に空気を取入れることが困難でしょう。次のように練習してください。

 1)口を閉じ歯を合わせる。下の前方を上顎につける。下顎を前に出す。
 2)気管孔より肺呼吸を始める。下顎を引き始める。
 3)力を入れて肺呼吸をし、同時に力をこめて下顎を引き、首に力を入れて舌を後方に引っ張り空気を食道に飲み込む。
 4)直ちに肺呼吸をしながら食道内の空気を勢いよく吐き出す。<あっ>と発声される。

 1〜4までの運動を根気よく練習します。
気管からの肺呼吸のリズムを上手に利用できれば発声可能になります。
 なかなか<あ>は出ません。普通は1月位はかかります。
 <あ>が出るようになっても、これは音であり、声ではありません。
 百発百中になって初めて声になります。
<あ>がでなければ、<か>から始めても良いのです。

諦めずに、さあ、始めましょう。